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episode51 「痛みと苦しみは誰かに訴えていいはずなのに」

Autor: 小鳥遊梓
last update Data de publicação: 2026-10-15 18:00:34

「クラリカのお父さんを殺した、って……」

 雷に打たれたかのような、呆気にとられた顔。様々な感情を抱いての表情だろう。長鎗の彼女も、ロラほどではないにしろ目が瞬き少し驚きの色を浮かべた。

「先日までこの国は戦争をしていました。王である彼女の父親を斃したことで戦争は終わり、私は左遷されてこの村にやってきました」

 囚人の懺悔のような告白。

 特に戦闘自体を嫌がっていたロラに対しては複雑で、自分の所業を排泄していくような気持ちにもなった。

「……フリストレールが戦争をしていたのは知っています。ですが待ってください。戦争を終わらせ左遷されたとは?」

「敗戦国の王に優位性をかざす予定だったのでしょう。ですがその本人を、私が殺してしまった」

 当然、戦勝国という事実は変わらないためあちらの国に対して優位ではある。しかし、戦争をしていたときの王に対してはより有効だ。

 勝者と敗者という明確な差があるのだ。これより先、フリストレールはヴァス
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  • フロムホライゾン 〜水天と白いレイス〜   episode52 「ねぇ騎士様。あの子を殺すの?」

    「申し訳ありません、そろそろ手を離して頂けると」「えっ! あっ、ご、ごめん騎士様! 痛かった?」 言うと、ロラはさっと私の手を離す。そして申し訳なさそうな表情のまま愛想笑いを浮かべた。 別に痛かったから手を離すよう言ったわけではない。ただこの手を握られた瞬間から、全身の血が今までとはまるで違うめぐり方をし始めたのだ。軽い動悸、しかして深い胸の乱れを感じた。 何かの魔法だろうか。この場面で魔法を使用するなど、私に対して敵意があるとしか思えないが。「騎士様」 私を正すように、長鎗の彼女が呼ぶ。 その声でなんとか心を冷静に帰すと、弾んだ鼓動をすっきり吐息へと吐き出した。「ロラさんも距離が近いですよ。騎士様がびっくりしています」「そ、そっか。そうだよね。ごめん騎士様」 否。 そう口に出すが、心が乱されたのは事実だ。どうしてそうなったかは分からないが、なんとなく頬がほのかに熱を帯びているのが感じられる。私が平静ではなかったという、名残だ。 長鎗の彼女が言う『びっくりしています』というのが正しいのだろうか。兵士時代、着替えを隠されたときでもこんなに乱れはしなかったというのに。「え、えっと。話を戻すね、騎士様」 やや語尾が高ぶった声で、愛想笑いを続けたままロラは言った。「騎士様は元々は兵士で、戦争に参加してたんだよね? だったら人を殺すことに躊躇がないことには何も言わない。それをダメって言うのが難しいことくらいあたしにも分かるよ」 ロラはそれが彼女の最も真面目なときの表情であろう顔付をして私を見た。少しでも真剣に向き合おうとしないものなら、軽蔑を示すという鋭さ。 意外だった。彼女ならば有無言わずに人を殺すことは良くない、そう言い切ると思っていたからだ。理由のある決闘ですら彼女は、止めようとしていたのを思い出す。「ねぇ騎士様。あの子を殺すの?」「……分かりません。彼女が野盗と繋がっているのなら、処する必要はあると思います。ですが……」 言葉に

  • フロムホライゾン 〜水天と白いレイス〜   episode51 「痛みと苦しみは誰かに訴えていいはずなのに」

    「クラリカのお父さんを殺した、って……」 雷に打たれたかのような、呆気にとられた顔。様々な感情を抱いての表情だろう。長鎗の彼女も、ロラほどではないにしろ目が瞬き少し驚きの色を浮かべた。「先日までこの国は戦争をしていました。王である彼女の父親を斃したことで戦争は終わり、私は左遷されてこの村にやってきました」 囚人の懺悔のような告白。 特に戦闘自体を嫌がっていたロラに対しては複雑で、自分の所業を排泄していくような気持ちにもなった。「……フリストレールが戦争をしていたのは知っています。ですが待ってください。戦争を終わらせ左遷されたとは?」「敗戦国の王に優位性をかざす予定だったのでしょう。ですがその本人を、私が殺してしまった」 当然、戦勝国という事実は変わらないためあちらの国に対して優位ではある。しかし、戦争をしていたときの王に対してはより有効だ。 勝者と敗者という明確な差があるのだ。これより先、フリストレールはヴァスホートと交流を重ねてその優位を振りかざしていく計画だろう。その中で、一番理想的な流れを私が潰してしまった。 なるほど、長鎗の彼女はそう呟く。驚くことに、私の少ない説明からその言葉以上の内容を汲み取ったらしい。 恐らく彼女は歴史だけでなく、国状も知っているのだ。自身の仇敵の情報を集める一環だろうか、カルム内にいるだけでは知りえない事である。「二度目となりますが、ここに騎士様の敵はいません。ですが、騎士様は人の気持ちというものを知っていくべきだと思います」「人の気持ち、ですか……?」 その意味を、捏ねくり回す。 これまで黒い感情しか浴びてこなかったため、深く考える必要のなかったものだ。攻撃、苛立ち、私に向けられるものなどそれだけだった。だがしかし、この村に来て四日目となるが、未だ明確な敵意というものを向けられた記憶がない。 疑われた際は、それ相応の理由があった。 唯一攻撃性のある意思は双剣の彼女である。彼女だけが分からない。厄介払いという言葉を、明らかに白髪の

  • フロムホライゾン 〜水天と白いレイス〜   episode50 「騎士様」

    「……様……」 ふいに誰かの声が聞こえたが、きっとまだ生涯を振り返っているのだろう、と思いうつろに重い頭で聞いていた。声がまるでカルーセルの中に響くように感じる。 少し熱を抱えた頭の中に、途切れ途切れの声が何度も割り込んできて、こんなにも呼びかけられた場面などあっただろうか。なんて思いながらも、醒めてまた眠りに入る手前の状態に身を置く。 だが声は津波のように押し寄せてくる。 これが死というものの間際だというのなら、少ししつこい。もういい加減、連れて行ってくれないだろうか。泥の中を漂うように、意識が徐々に沈んでいく。「……士……様!」 そのたびに誰かが私を呼ぶ。 聞き覚えのある、女性の声。しかし頭が熱病みたいにぼんやりとしていて、具体的に誰の声か考えることが出来ない。「騎士様!」 はっと目が覚めた。初めに目に飛び込んできたのは、不安そうな表情をするロラの顔。それに家の天井。つい先程までこれまでの人生を振り返っていたため、一瞬まだ一昨日の記憶を顧みているのかと思った。夜警から戻り、ロラと少しお喋りをしたあの朝だ。 だが背後に長鎗の彼女の姿が見え、すぐにこれが思い出ではないことを知覚する。「良かった。目覚めましたか、騎士様」 生きている。 何が倒される原因となったかは不明だが、ともかく私は確かにあの場で気を失った。ご丁寧に、振り返ったとて意味のない人生まで見せられたというのに。 思いがけないことに、心臓を鷲掴みにされたような感覚が走る。そしてそのまま破裂してしまいそうな、そんな驚きに打たれて目を見開いた。「生きている、のですか。私は」 ゆっくりと、確認するように言う。「騎士様! 良かった、ホントに……!」 途端に、ロラに抱きしめられた。腕が背中に回り、強くいだき締めてくる。突発的にしては些か長い。どうしてかすすり泣いていて、この抱擁は長引く分だけきっと彼女を安堵させるものだ

  • フロムホライゾン 〜水天と白いレイス〜   episode49 私

     これは私の記憶の中で、二番目に古い記憶だ。 人は死ぬとき、これまでの人生が脳内を駆け巡るというが、これはそういうことだろうか。 なるほど、と顧みる。 しかし改めて、あまりいい人生ではなかったように思う。 孤児の私を拾ってくれたフルーレ・アヴィアージュは、まだ五歳だった亡霊を捨てた。少年兵として国に放り投げ、それ以降義父とは会っていない。 たくさんの少年兵と同じ兵団に入隊した私を、まず出迎えたのは上官からの暴力である。同じ孤児である少年兵達はまだ無垢で、白髪を虐げる理由を学んでいない。 だが大人は違う。 私を虐げていい歴史を知っている。 初顔合わせで有無言わず顔面を蹴り飛ばされたのは衝撃的だった。突然のことに驚き、私の思考は完全に止まる。少年兵たちはその様子を見て瞠目していたが、上官が声高に理由を述べると、そのときから彼らの私を見る目は侮蔑に変わった。生まれつき身体が頑丈で良かったと思う。でなければ、私は戦場に駆り出される前に死んでいただろう。 後から理解したのだが、それは言い訳に過ぎなかった。 国の黒歴史、白髪。屈辱を受けたのだから、その子は侮蔑してもいいという国からのお達し。実際私がフリストレールにいることなど、彼らは気になどしてないのだ。国内に白髪がいて屈辱など、誰も感じてなどいない。 感じているのは、この子は虐めてもいいのだという意識だけ。 誰かとすれ違うたびに肩をぶつけられ、水を浴びせられもした。凌辱という行為へ手が伸びなかったのは、恐らくアヴィアージュという性のお陰だ。アヴィアージュ家は代々外務大臣を務める名門である。見捨てられた身ではあるが、その性には力があった。私自身が力を持つ可能性は皆無だが、それにより虐待行為はほとんど暴力や過度なノルマであったのが救いだ。 運が良かったと言えよう。 義母がたまに顔を見せに来ていたのも大きい。彼女からは特に、負の感情を感じなかった。好意的な意思があったわけでもないが。それでも、面会に来た日は私への攻撃が止んだのを覚えている。また一定の期間を置いて会いに来たため、その付近になると怪我の目立つ顔面への暴力も控えめになった。 もし私が、本

  • フロムホライゾン 〜水天と白いレイス〜   episode48 邂逅

      君に過酷な宿命を背負わせてしまったことを謝罪しよう。 目の前の男はそう言った。 何の話かと口にしたが、何の反応も見せないところを見るに、あちらは私の言葉が分からないらしい。 肩鎧に手甲。 長い前髪を持つ、豊かな白純の髪。 その装いや武装の雰囲気は、どこか自分に似ている。 北方の武人だろうか。少なくとも、こうして無意識の中に現れる存在だ。どこかで私と関与している可能性がある者なのだろう。 やけに自我がしっかりとした夢だ。 ただ、その一言を口にしたのち、男の声は聞こえなくなってしまった。訴えるかのように唇は何度も開閉を連続させるが、何も分からない。 何かを伝えたいということだけが伝わってくる。 私に課した過酷な運命とはなんだろう。 この白髪という宿命か、いいや違う。 彼自身が白髪なのだ。 ならば、あぁ、そうか。 声がまた聞こえる。 心から。 これからの幸せを願おう。 だからどうか。 どうか、待って。 貴方は何者なのですか。 手を伸ばす。 彼を、その声を、希うように。 私は、一体誰なのですか。 するとそれまでしかめっ面とも泣きっ面とも言えない、微妙な表情だった男の顔が、わずかに緩む。 また聞こえなくなる。 唇から紡がれる、その言葉。 待って、ください。 その言の葉を口外に投げる、その前に。 目の前は真っ白に包まれた。

  • フロムホライゾン 〜水天と白いレイス〜   episode47 「殺した人のことなんていちいち覚えていないかしら」

    フリストレールの白い亡霊。 先日、風使いが私を指すために使った言葉。亡霊はこの国では蔑称だが、外から来た者がそう呼ぶ場合は別の意味になるだろう。白髪を蔑む必要がないからだ。 私のことを別国で知る機会など一つしかない。 兵士であったことだ。 風使いは分かる。かつて戦闘要員として駆り出されていた過去があったからだ。 だが歌うたいはどうだろう。痩せすぎとまでは言えないが、抱きしめれば折れてしまいそうな華奢な女性の肉体。兵士とは思えない。魔法使いである可能性のほうが高いが、見覚えがない。「何故、エステル様がその呼称を」 その問いに、彼女は軽い微笑を左の頬だけに浮かべた。「たまたまよ。いつも歌っている街から帰る途中で、亡霊が戦争を終わらせたって言っていたわ」 言葉にはわざと遠回りしているように感じた。 何故この呼称を知っているのか、なんて私にはどうだっていい。私が聞いたのは、どうして歌うたいが私をそう呼んだかである。「そう呼ばれているのね」なんて意味を持って言われた言葉ではないように思う。 そんなことをひけらかすためだけに、わざわざ早朝にこうして私を呼んだわけではないはずだ。まるで歌という光に虫を誘い出すように。仮にそうだった場合、世間話をするために呼んだということになってしまう。しかし彼女は、口数が少ないわけではないが、今のところ決して無駄話が好きという人物ではないように感じる。 あまり村の中で頻繁に見かけないというのもあるだろう。まだ全ての村人に会ったわけではないが、彼女に関しては特に謎めいた気配がある。「……エステル様。いま村は警戒態勢です、こうして安易に身を晒すのは」 よくないのでは。 そう言う前に、気配を感じた。 何かが高速で接近する音。恐らく人ではない。歌うたい目掛けて、それは一直線に飛んでくる。無防備な姿を晒した私たちへの、代償めいた一撃。 既に、攻撃されていたのだ。 果たして、どこから発射されたのか。方角を考えれば、まだ私が見て廻れていない方だ。しかし、攻撃される方向が分かってしまえば対処は

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